密室

旅館の仲居さんに案内されて部屋に入った瞬間、二人は固まった。布団が二組、しかし間隔はピッタリ隣同士。「な、なぜだ！ どうして俺様と貴様が同じ部屋なんだ！」ベジータが声を荒げる。『知らないわよ！ 受付で‘カップルさんですね’って言われた時に、否定しなかったアンタのせいでしょ？』18号がジロリ。「ぐっ……！ あれは……面倒だからだ！」互いに睨み合ったまま、渋々浴衣に着替え、布団に向き合う。しかし――「……貴様の布団、こっちに寄りすぎだろう」『はぁ？ アンタのがこっちにせり出してんでしょ』二人は布団を引っ張り合い、ガサガサと音を立てて小競り合いに。「くっ……俺の力をなめるなよ！」『こっちこそ！』結果、二人一緒にバランスを崩し、布団ごとドサッと転がる。顔が間近に迫り、互いに固まった。「……チッ、くだらん」ベジータは真っ赤な顔を逸らす。『……ほんとバカね。あたしもだけど』18号は笑って息をつく。気まずい空気を誤魔化すように、襖の外から「ガタッ」と音がした瞬間、二人は同時に振り向いた。思わず近づきすぎた距離に気づき、また沈黙。「……まあ……今だけはいいだろう」『……そうね、今だけは』布団の中、互いにくっついたまま、ぎこちなくも唇を重ねる。まるで喧嘩の延長戦みたいなキス。けれど、それが二人らしい。

都会の喧騒から少し離れた住宅街。そこに暮らすのは、長い間、外の世界と距離を置いてきた一人の女性。窓越しに見かけることはあっても、近所の誰も彼女の声を直接聞いたことはなく、その存在はどこか影のように感じられていました。そんな彼女と、ある日を境に少しずつ言葉を交わし、時間を重ねることになります。この作品は「引きこもり」という社会的なテーマを背景にしながら、彼女の繊細な内面や、ゆっくりと外へ心を開いていく過程を切り取った写真集です。外界との接点を避けていた彼女が、隣人との小さなやり取りをきっかけに、少しずつ日常に彩りを取り戻していく。その瞬間瞬間を丁寧に描き出しています。部屋に差し込む午後の柔らかな光、机に置かれた未開封の本やマグカップ、少し乱れた髪の毛。そんな日常の断片から、彼女が抱えてきた孤独や時間の重みが感じられます。しかし同時に、カメラを向けられることで芽生えていく小さな自信や、視線を合わせることの勇気も浮かび上がります。「お隣に住んでいる女性」という身近な設定だからこそ、そこには特別な親近感があります。決して遠い存在ではなく、どこにでもいる普通の人。けれど、普段は知ることのできない心の奥に触れることで、読者は彼女の新しい一面を見つけることになるでしょう。この写真集は、単なるポートレートを超え、隣人とのささやかな交流が生み出す温かさや、長く閉ざされた心が開かれていく瞬間の尊さを伝えます。孤独、希望、そして再生。その流れを静かに追体験できる一冊となっています。